筑紫観世音寺の「かいだん」 [福岡]
奈良時代、僧侶になるためには特定の施設で得度を受ける必要があり、だれでもなれるわけではありませんでした。
その施設が「戒壇」で、奈良東大寺を中央として、東日本には下野薬師寺、西国には筑紫観世音寺に戒壇が作られ、必ずここで承認される必要がありました。
今の国家資格のような物でしょうか。
しかし、時代が下るとそうした決まり事は廃れていき、奈良の東大寺はともかく 現在は薬師寺も観世音寺も当時の隆盛を感じさせるような寺の様子は感じられません。
筑紫観世音寺は太宰府跡の近くにひっそりとたたずんでいて、戒壇跡は観世音寺本堂の隣に別に囲われています。
あまりの静けさに、寺に伝わる文化財はほとんど無いのかと思いましたが、隣接する宝物殿に入って驚きました。
辺りの雰囲気と一変して中は巨大な仏像が沢山収められていました。
馬頭観音や十一面観音などのほかに巨大な地蔵菩薩像や大黒天像が見下ろしています。
その文化財の密集具合は東寺を思い起こさせました。
仏像だけでなく前述の三戒壇それぞれの出土瓦の比較もあり、国の中枢と深い関係にあった長い歴史を感じました。
残念ながら創建当時の仏像はなく、一部が重要文化財に指定されているのみです。
長い歴史を経た過程で貴重な文化財は失われてしまったのかと思い帰路につくと、その途上最も貴重な文化財がありました。
国宝の梵鐘です。
この鐘は7世紀の作で国内最古と言われている物です(いただいた説明書きには7世紀の奈良時代作となっているのですが、奈良時代は7世紀ではありません。これはいかに)。
宝物館の外に無造作に国宝があるとは思いませんでしたが、この梵鐘は鐘としても現役です。
近寄ってみると、地肌が荒れていて確かに長い月日を経ていることを感じさせる物でした。
やはり、歴史の中心にあった寺は寂れたとは言え、しっかりとした物を伝えているものだと改めて感じました。
筑紫観世音寺
9:00~17:00 宝物館 大人500円 高大生300円
最寄りバス停は太宰府市コミュニティバスまほろば号の観世音寺前です。
鴻臚館跡展示館 [福岡]
学生の頃、なぜ平安時代頃の使節のための饗応施設は「鴻臚館」と呼ぶのだろうと疑問に思っていたことを今でも覚えています。
それから月日は流れて、つい最近読んだ本で中国の三国時代の外務大臣に相当する職を「大鴻臚」と呼んでいたことを知りました。
つまり「鴻臚館」という言葉は中国由来のものだと今更ながら知ったわけです。
当時は遣隋使や遣唐使を派遣して制度や文化を吸収していましたが、「鴻臚館」もそうしたものの一つなのですね。
「鴻臚館」は平安時代頃まで国の重要な外交施設だったにもかかわらず、つい最近までその位置が特定されていませんでした。
大正時代になって九州帝国大学の中山平次郎博士が福岡城の跡地であると提唱し、それが発掘され証明されたのは1987年になってからです。
本当に最近のことなのです。
この中山博士がすごい人物で、医者にもかかわらず考古学に造詣が深く鴻臚館の跡地を見出しただけでなく、それを証明すべく当時福岡城に駐屯していた陸軍の敷地内を祭で開放したタイミングを見計らって掘り起こして目的の遺物を入手するといいう荒技をやってのけています。
ときに運悪く守衛に捕まることもあったようで、命がけの発掘です。
しかしながら、溢れる行動力と強い信念には見習うべきものがあります。
医者という現在の身分に甘んじてフロンティア精神を忘れてはいけないのですね。
かつて平和台球場があった当該の発掘現場では多くの遺物が出土し、現在も発掘進行中です。
また、その発掘結果を公開するべく、現地には展示館が開設されています。
史跡を出土した状態で公開しているほか、当時の白磁や木簡などが展示されています。
また、建物の外の広場には礎石跡や2カ所の施設を隔てていた堀の跡などがデザインされてわかるようになっています。
今まで分かっていなかった施設の概要が日進月歩で明らかになっているのですね。
展示館の道を挟んで向かいにはプレハブの小展示室もあります。
こちらでは速報展などが行われるとのことですが、行ったときは大きな展示は行われていませんでした。
しかしながら、パネルで説明された飛鳥~奈良期の施設の変遷のパネル展示は移り変わりを分かりやすく感じ取ることが出来ました。
この移り変わり自体は展示館の映像としても見ることができます(流れている映像ですので違う時期同士の横断した比較はしづらいものです)。
鴻臚館以外にも未だに場所の特定がされていない施設もたくさんあるようで、歴史の教科書が今後大きく書き変わる可能性もまだ大いにあるようです。
今後の発掘による大発見を期待します。
鴻臚館跡展示館
9:00~16:30 無料
鴻臚館跡小展示室
土日祝閉館 9:00~16:30 無料
最寄り駅は福岡市営地下鉄空港線の赤坂です。