書道博物館 漢字のなりたち展 [東京]
近くの美術館同士で企画展のテーマがかぶるということはあまり経験したことがありません。
今回、都内の美術館で漢字展が行われているということで調べていたところ、似たような時期に複数の美術館で同一テーマの企画展が開催されているという事案に遭遇しました。
具体的には、東洋文庫ミュージアムの漢字展と、台東区立書道博物館の漢字のなりたち展です。
初心者向けとういことで書道博物館に行こうと決めていたのですが、館名を失念した挙げ句、間違えて東洋文庫ミュージアムに行きかけました。
まさか両方で漢字がテーマの企画展が行われているとは思いませんからね。
漢字はブームなのでしょうか。
書道博物館では甲骨文字からの漢字の変遷をあらゆる遺物を通して紹介していました。
会期前半は“子供向け”ということで、わかりやすく紹介しています。
と言っても、甲骨文字が動物のものだったりするだけで、書いてある文の内容は難しいわけですから、子供が全て理解するのは難しいでしょう。
ただし、だいたいの移り変わりは分かります。
甲骨文字から殷や周の時代の文字はとても複雑な形をしています。
以前、漢字ミュージアムのときも書きましたが、地方によってマチマチだった表記を始皇帝が統一しました。
そして、漢の時代に入ると、今私達が目にする漢字とほぼ同じものが使われるようになります。
それから2000年が経つのですから、すごいですね。
そして、今回の展示で注目すべきものは三国時代の鍾繇の「薦季直表」です。
2000年近く前のものにも関わらず、綺麗な字体です。
鍾繇は三国時代の魏の重臣ですが、三国志展が行われた今年に相応しい展示です。
また、「三体石経」も面白いものです。
これは同じく魏の時代のものですが、一つの石に古文・小篆・隷書という3つの書体で同一内容が書かれています。
つまり、漢字の変遷がこれによって解明されるのです。
中国のロゼッタストーンとも言われるこの石はもう少し脚光を浴びてもいいのではないかと思います。
もっとも、破壊されて断片化してしまい、書いてある内容自体は良く分かっていないようですが。
9/25からは大人向け展示が始まりますが、どのように変わるのでしょうか。
一つの企画展を、対象を分けて開催するというのはこれまで聞いたことがなく、面白い試みです。
個人的には子供向け展示でも十分楽しめました。
甲骨文字が書かれた骨を裏から炎を当ててヒビの入る様子から吉凶を占ったということだったのですが、どう入ると吉で、どう入ると凶なのか具体例を見てみたいところです。
カタカナ語が溢れ、これまでの日本文化が希薄になりつつあるからこそ、漢字が注目されているのかもしれません。
だからこそ、各地でたくさんの漢字展が開催され、好評を得るのでしょう。
書道博物館 漢字のなりたち ー古代文字の世界ー
~12/15(月休) 9:30~16:00 500円
最寄り駅は山手線の鶯谷駅です。
東京国立近代美術館 高畑勲展 [東京]
昨年惜しくも亡くなった高畑勲氏の回顧展が行われています。
ジブリと言えば宮崎駿氏が有名ですが、高畑氏も最も重要な人物であったことは間違いありません。
高畑氏はどのような思想のもとに作品を作ってきたか、その軌跡を見ることができます。
高畑氏は東大出身なんですね。
だからというわけではないでしょうが、まず驚くのは作品を作る際の綿密な進行表です。
登場キャラクターの関係性やストーリー内の感情の起伏が図として表され、スタッフの誰もがどのような作品を目指しているのか分かりやすくなっていました。
そのようにしてまず「太陽の王子 ホルスの大冒険」などが作られました。
そして、それに続くのが「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」です。
当時のロケハンの写真を見ると、作品とほぼ同じような景色が広がり、今と殆ど変わらないような印象もあります。
リアルな風景の海外作品で大成功を収め、高畑氏が次に目指したのは日本の文化だったようです。
その結果、「火垂るの墓」や「おもひでぽろぽろ」が作品として生み出されました。
個人的には「おもひでぽろぽろ」の気持ち悪いくらいの写実表現に怖さ(気持ち悪さ)を覚えた記憶があります。
当時はそこまでリアルに描くアニメは珍しかった気がしますから。
しかし、それだけでなく細かな点にもアニメ的配慮がなされていて、「火垂るの墓」では通常時と火に照らされているときで色彩が細かく決まっていたり、「おもひでぽろぽろ」では現在のシーンと回想シーンで色彩や背景処理が変えられているとのことでした。
綿密さが極まっていきます。
ところが、
続く作品の「ホーホケキョ となりの山田くん」や「かぐや姫の物語」では、全く相反する描き方になり、細部表現は全く無く、最小限の線画で多くの空間や動きを表現する形に変わっています。
この発想の転換は非常に考えさせられます。
アニメーションでしかできないことの行き着く先がこのような作品へと結実したのかもしれません。
細部表現を極めたいならば、アニメは写真やビデオにはかないません。
逆に情報量を少なくすれば、作品に普遍性が生まれるのです。
個人個人の最大公約数の部分で作品を作れば、多くの人の心に染み渡る作品になると考えられます。
例えば、今流行りの新海誠監督の作品は、ストーリーが非常に面白いのですが、作品の細部を現実に忠実に描いてしまっていることで、聖地が生まれる反面、普遍性が消失しています。
どこでもない場所を舞台として作品が作られれば、見た人全員の隣町が舞台だと思える可能性が生じます。
つまり、より身近な作品になり得るのです。
新宿が聖地になれば多くの関東圏の人は身近に感じるかもしれませんが、それ以外の人にとっては遠くの出来事になってしまいます。
(人口比で考えれば、身近に感じられることによる高評価の方が勝り、興行としては正しいのでしょう)
高畑氏が80年以上の人生で到達した哲学は、アニメーションで描くということの意味は“有”を究めた先の“無”、情報を最小限にした形で作品を表現することだったのかもしれません。
そもそもアニメーション自体がそういうものですね。
静止画をつないで動きを作っているのは人の意識(心)です。
最小限の線画に動きや感情の意味を肉付けするのも、きっと人の意識です。
人の意識の可能性を示しているのです。
深いです。
上にも書いたように、現代は写実主義・聖地主義の時代です。
新海監督が新たな表現法を用いて作品を作る時代は来るでしょうか。
間違いなく、今後日本のアニメ界を背負うことを任された人ですから、新たな可能性、新たな表現の世界を期待したいです。
東京国立近代美術館 高畑勲展
~10/6(月、祝翌日休) 10:00~16:30(金土~20:30) 一般1500円 大学生1100円
最寄り駅は東京メトロの竹橋駅です。
東京国立博物館 三国志展 [東京]
三国志は日本国内にたくさんのファンがいることでしょう。
ときに、日中関係が良くない時があっても、中国の歴史や文化を根底から否定する言説は少ない気がします。
幸運にも現在の日中関係は比較的良好で、問題なく開催される運びとなったことは喜ばしい限りです。
もうひとりの隣人である韓国と違って、展示のために借りた逸物をそのまま難癖をつけて国内に留め置くなんてことはしませんからね。
そんなわけで、楽しみにしていた三国志展を見てきました。
盛夏に開催される展覧会は、上野駅から東京国立博物館の距離を歩くだけでも過酷です。
朝一に近い時間帯に到着したにもかかわらず、上野公園の美術館・博物館は軒並み長蛇の列でした。
西洋美術館が入館40分待ち、科学博物館に至っては50分待ちでした。
子供と一緒に炎天下に一時間弱待つのは過酷以外の何物でもないでしょう。
三国志も人気のあるコンテンツだけに待ち時間を覚悟しました。
すると・・・、チケット販売のところで数人の待ち列がありましたが、以外にもスムーズに中に入れました。
嬉しい誤算です。
会場のキャパシティの差なのでしょう。
実際に会場内に入ると二重三重に展示を取り囲む人で、展示の見づらい場所もいくつかありました。
そして、列が予想以上に進みません。
なぜか。
今回の展示はほぼ全てが撮影可能なため、多くの人が携帯電話などで写真を撮っているんですね。
そのため、異常に時間がかかるのです。
ところが、第1,第2展示室を過ぎたあたりから混雑が解消されます。
おそらく、展示物の多さに写真を取ることに飽きるのでしょう。
しかし、どちらかと言えば、中盤から後半が面白いのです。
展示の中身は歴史の1ページとしての三国志で、ストーリー性はほとんど無く、物語と絡めた説明もありません。
事前知識がないと、説明しているのが誰なのか、どんな事件が起こっているのか分からないでしょう。
今回の展示では中国の実際の地図と関連させた解説もあるので。後漢の最後の皇帝の献帝の隠居の地がどの辺りにあったのかもよく分かりました。
当然、劉備、関羽、張飛、諸葛亮、曹操、孫権などに注目した展示はあるのですが、曹植、朱然、毌丘倹など変わった武将にも注目されています。
これらの人物は墓や遺跡が発掘されているんですね。
主要な登場人物とは離れた人に注目しているのも面白い一方で、お気に入りの武将の名前が全く出てこないことには苦笑します。
展示の形も凝っています。
たくさんの矢が空を飛ぶ様子を再現している部屋があります。
当時のハイテク兵器「弩」の発掘された本物も展示されていて貴重です。
そして、近年突如発掘され、注目を浴びている曹操の墓も再現されています。
オーパーツのような白磁も発掘され、展示されていました。
本来の白磁は隋の時代頃に始まるとのことで、この時代に発掘されることが謎だそうです。
やはり、雄大な歴史ロマンである三国志は面白いですね。
わずか数十年の話でさえこれだけの展示が作れるのですから、他の時代にも注目したらもっと色々と知識が広がるかもしれません。
加えて、三国志の時代の登場人物の発掘された墓はわずかですし、時代が違う数々の英雄もどこかにたくさん眠っているでしょう。
今後の発掘により、もっと多くの情報や宝物を知ることができることを期待します。
東京国立博物館 三国志展
~9/16(月休) 9:30~16:30(金土は20:30まで) 一般1600円 高大生1200円
最寄り駅は山手線などの上野駅です。
現代美術巨匠・人気作家展 [東京]
丸善の丸の内本店のギャラリーで現代美術作家の作品の展示販売が行われていました。
もちろん買う予定はないので、鑑賞しに行っただけなのですが、思いがけずギャラリーの人に説明をしていただける機会を得ました。
最も有名な作家は草間彌生でしょうか。
水玉模様の作品が代表作ですが、今回のギャラリーでのイチオシは網目模様の作品のようです。
全体的に80~90年代の作品、それも版画が多くありました。
それ以外にも奈良美智や村上隆、キーズ・へリングなど、ひと目で誰の作品かわかるような個性ある絵画が並んでいました。
強いて分かりにくい作品といえば会田誠の「新潟⊃世界」でしょうか。
会田作品の独特な世界観は皆無ですし、絵として素晴らしいのかどうか、素人には分かりかねます。
草間彌生の作品と同様に特集が組まれていたのが、元永定正です。
最近どこかで見た名前だな、と思っていたのですが、本屋の絵本コーナーでした。
古くからある谷川俊太郎作の絵本「もこもこもこ」の絵を描いたのが元永定正でした。
印象的な名前でしたので、谷川俊太郎と絵本作品を作ったと聞いて、ハッと思い出しました。
いやはや、現代画家とは知りませんでした。
ノラネコぐんだんの工藤ノリコや11ぴきのねこの馬場のぼるのように絵本用の絵を専門に描く人かと思っていました。
いい勉強になりました。
そんな中、新しく現代画家と知ったばかりにもかかわらず、とても雰囲気のいい作品がありました。
ギャラリーですからもちろん販売もしているのですが、良い価格帯ですね。
シルクスクリーンで単価も安く、10~50万円で買えるものもたくさんありました。
そんな絵が家に一枚飾られていると、きっと毎日の生活が豊かに感じられるでしょう。
一方で、その絵の所有者として自分に相応しい価値があるのかどうか、毎日苦悶して生活しそうな気もしますが。
現代美術巨匠・人気作家展 草間彌生 & 元永定正特集
~7/9 9:00~21:00 無料
最寄り駅は山手線などの東京駅です。
アーツ千代田3331 シド・ミード展 [東京]
デザイン界の巨匠、シド・ミード氏の作品展が東京で開催されています。
カーデザインに始まり、様々なSF映画のメカニックデザインをされてきた人です。
そのテーマは近未来。
確かに特徴的な流線型のデザインは、近未来の日常を描いているように感じます。
しかし、実は作品の中には1990年を描いていたり、2000年を描いているものもあります。
残念ながら、実際の歴史が彼の作品に追いつくことはできなかったようです。
シド・ミード氏の作品には東京を描いたものが複数あります。
だからこそ今回の企画展が東京でのみ開催されているのだそうです。
しかし、なんと言っても一番の魅力はヤマトやガンダムのメカニカルデザインをしていることです。
特に∀ガンダムは秀逸です。
固定観念にとらわれない自由な発想が、新しい広がりを生み出します。
しがらみの多い映像関係者ならびに日本人には作り出すことのできないデザインだったでしょう。
おヒゲのガンダムはガンダムデザインとしての殻を破ったものだと感じます。
惜しむらくは、追随する人が現れなかったことかと。
実際のところ、提示されたラフデザインを、今ある∀ガンダムに折り合いをつけた周りの方々も有能だったのでしょう。
顔以外にも背面のバックパックがないデザインの理由やそれに変わる足の裏側のスラスターなど、細部の構造の解説が興味深く感じました。
ちなみに、シド・ミード氏とガンダムの関係は∀ガンダムが初めてではなく、会場にはファーストガンダムに関する絵も展示されていました。
聞くところによると、Zガンダムに関する絵も書いていたということですが、それについても合わせて展示されているとなお良かったです。
会場では新しい試みが行われていました。
専用アプリをスマートフォンにダウンロードして、展示作品に向けて画面をかざすと絵にラフデザインが浮かび上がったりします。
中には3Dの作品が飛び出すものもあり、向きを変えることで前後左右のあらゆる角度から覗き込むことができるものもありました。
会場は基本的に写真撮影不可ですが、スマートフォンを掲げていると、まるで写真を撮っているように見えかねません
それどころか誤操作でシャッターが切れてしまうこともありそうです。
そうした操作の問題で、まだまだ改善点のある取り組みですが、なかなか面白いと思います。
一方で、会場でレンタルされている音声ガイド(500円)がいけません。
操作性の悪さは我慢するとしても、解説に全く深みがありません。
聞いたことで少しでも得をした感じがないと、ただの荷物です。
ちなみに、流石に人気デザイナーということでGW中の入場待ちがものすごいことになっていました。
開始早々に行ったのですが、1時間半待ちでした。
あまりに、うんざりしたので別の用事を済ませてから午後に再度行ったところ、待ちの列は十数分程度まで減っていました。
午後の方が空いている展示は稀な気がします。
観覧者の年齢層的な問題でしょうか。
アーツ千代田3331 シド・ミード展
~5/19 11:00~20:00 一般2000円 学生1000円
最寄り駅は東京メトロ銀座線の末広町駅です。
トクサツガガガ展 in NHKスタジオパーク [東京]
最近のNHKのドラマは攻めてる気がします。
少し前から民放とは違う観点からのドラマが制作されているような気がしていました。
いや、むしろ民放がひどいのか。
ひたすらアイドルを並べたり、内容に至っては刑事や医者や弁護士ばかりでひねりがない。
それに比べて、NHKのドラマは斜め上のテーマで攻めてきています。
時代劇を普通に作っているのも強みですが、最近ではゾンビドラマも放送されています。
惜しむらくは、全話が7回程度と少ないことでしょうか。
しかし、少ないからこそ奇抜なテーマで押し通すことができるのかもしれません。
今回取り上げた「トクサツガガガ」も番組紹介で面白そうとは思っていたのですが、視聴するには至らず。
ところが、世間では見る間に評判が上がっていきました。
視聴の波に乗り切れなかったことを悔しく思っていたら、それを見透かしたかのような追っかけ再放送が行われ、最終的に無事追いつきました。
そしてそこから最後まで視聴の流れでした。
NHKのドラマを通しでみたのはおそらく初めてです。
話題になるだけあって凝った作りですね。
オタクのあるあるが詰まっていて、ニヤリとすることも多々ありました。
何度考えても、このドラマがNHKであることが不思議でなりません。
そして、最終回で予想外のフラグを立てられてしまったために、再度録画を始めから見るに至っています。
ドラマを一話から再度見直すなんて言うこともおそらく初めてです。
完全に手玉に取られています。
そして、極めつけはGW期間中に渋谷のNHKで行われているトクサツガガガ展にも行ってしまいました。
会場は小さな区画だけでしたが、劇中で使用したオタクグッズや特撮スーツが展示されていました。
近くで見られて満足です。
そして、結構賑わっていました。
せっかくの人気ですから、劇中劇のジュウショウワングッズを作ったら売れるのだろうと思うのですが、その辺の動きは無いようです。
そこらへんの機敏な感覚は民放のほうが上ですね。
しかし、それだけでなく、なんとスタジオパーク自体のグッズ売り場が昨年度内で廃止されてしまっていました。
結構色々なグッズが売っていて、無駄に色々買っていたのですが、今は全く無いのです。
どうしたらいいのかを係の人に聞いたところ東京駅に行ってくださいとのことで・・・。
そりゃそうなのですが。
近隣の東急百貨店内のNHKコーナーも無くなっていました。
せっかくの盛り上がりに水をさされて残念でなりません。
トクサツガガガ展 in NHKスタジオパーク
~5/6 10:00~17:30 期間中無料
最寄り駅は山手線などの渋谷駅です。
Gallery AaMo イグノーベル賞の世界展 [東京]
今年のノーベル賞の生理学・医学賞に本庶先生が選ばれました。
すごいですね。
昔から存じ上げていますが、研究はよくわかりません。
でも。オブジーボの元になった研究と言われると納得がいきます。
さて、そんなノーベル賞と同様に最近注目を浴びるのがイグノーベル賞です。
今年も日本人が選ばれました。
内容は「座位で行う大腸内視鏡検査」で昭和伊南総合病院に勤務する堀内朗医師が受賞しました。
これで12年連続とのことです。
世の中には様々な研究があるんですね。
そうした、奇抜な研究を称えるのがイグノーベル賞ですが、その軌跡をこの展示ではまとめています。
イグノーベル賞の歴史と一部の研究についての紹介がありましたが、研究はいくつかのパターンに分類できるような気がしました。
1.完全に風刺のもの。
会場にはありませんでしたが、核実験を行ったフランスのシラク大統領に平和賞が、警官が賄賂を受け取っていたタイ警察に経済学賞が授与されています。
2.実はすごい研究のもの
これが一番多いですし、ためになります。
確かに一見飲み屋の話題の枠を出ないような話に聞こえますが、その背景にはきちんとした科学があります。
2003年に金沢大学の廣瀬幸雄氏が兼六園の銅像が鳩に嫌われる理由を解析したことで化学賞を受賞していますが、これは銅像に含有するヒ素が原因だったそうです。
2007年の牛の糞からバニラの香りのもとであるバニリンを合成したものも面白いです(化学賞)。
ただし、廃油から食用油を合成すると社会問題になりますね。
本質的には同じように思えるのですが。
3.事実そのものを知らなかったもの
魚のニシンはおなら(体から発する空気)でコミュニケーションを取るそうです(生物学賞)。
スパゲッティは手でたわませて折ると、3つの破片に割れるそうです(物理学賞)。
これは実際に会場で体験ができます。
4.価値がよくわからないもの
ドクター中松の毎日の食事の記録(栄養学賞)。
妊婦の出産を分娩台を回転させることで遠心力を生み出し補助する機械(健康管理賞)
対熊用スーツの開発(安全工学賞)
5.そもそも学問かどうかあやしいもの
たまごっちの開発(経済学賞)
カラオケの発明(平和賞)
※バウリンガルも平和賞を受賞していますが、これは学問的要素を感じます。
マーフィーの法則のトーストがバターの面を下にして落ちる話やモスキート音の話もイグノーベル賞を受賞しているんですね。
モスキート音もちゃんと聞こえましたよ。
とにかくネタが盛り沢山ですし、体験もたくさん用意されています。
話題性がありますし、会場が東京ドームシティということもあり殆どの観覧者が若者でした。
科学に興味を持ってもらうのは良い試みです。
東京ドームシティ Gallery AaMo イグノーベル賞の世界展
~11/4 10:00~18:00(平日は12時から) 1400円
最寄り駅は総武線の水道橋駅です。
結構人気な展示で混み合いますので、観覧は午前中をおすすめします。
旧新橋停車場 黒岩保美展 [東京]
黒岩保美(くろいわやすよし)氏は国鉄の様々なデザインを描いた方です。
今回の企画展はその没後20年を記念して行われています。
今では工業デザイナーという肩書きが当然のように存在しますが、戦後すぐの時代にはそんな洒落た職業は普通の選択肢ではなかったでしょう。
黒岩氏は東京日本橋の生まれで、家業は高島屋と取引のある由緒ある家でした。
しかし、彼は昔から絵と鉄道が好きでした。
家族は少しでも将来へつながるように画業(日本画)を学ばせたようです。
これが後に生きてきます。
縁あって(そもそも鉄道が好きだったので)国鉄に嘱託職員として入局した後、その画業を生かして様々な鉄道関係の資料を描いていきました。
その一つに戦後の進駐軍用改造車の見取り図があります。
現代にパソコンを使って書いても大変な微細な構造と配置図を、黒岩氏は日本画の技法を用いて絵で描きました。
その明瞭さには驚きます。
窓に描かれた鳥の絵も、ぼやかしてごまかすのではなくきちんと描きこまれています。
これが日本画の真髄なのだそうです。
そして時代が下っていくと国鉄特急最盛期の様々な特急の愛称名板のデザインの仕事が行われました。
また、特急や電車の配色案もあります。
見どころは何と言ってもその“ボツ案”です。
この展示ではたくさんの“ボツ案”があります。
それを見ると、どのような試行錯誤が行われているかが感じられます。
特急の「はと」「つばめ」のヘッドマークの構図案や新幹線の色彩案で、もしも異なる案が採用されていたら全く印象の異なる乗り物だったかも知れません。
また国鉄の「JNR」マークも黒岩氏が作成したものです。
一見して、誰でも書けそうなシンプルなマークですが、資料を見ると緻密な計算が書き込まれています。
片手間で作られたとの印象は全くの誤解でした。
「絵を描くのが好き」+「鉄道が好き」から黒岩氏は自分の生きる道を構築しました。
当時は同じような道を選ぶ人はとても少なかったでしょう。
こうした、一見異分野に見られる物同士を融合させ、新たな道を開拓するところは見習いたいものです。
かつては国鉄の中に黒岩氏のような何らかの卓越した技術を持つ人がいて、その得意分野を生かして魅力あるものを創造してきたでしょうが、今は間違いなく外注でしょう。
デザインも外注、車内販売も外注、そのうちには車掌も外注。
効率化が突然変異の面白さを削いでいるのは間違いありません。
混沌とした時代には混沌とした時代の良さがあるものです。
しかし、それ以前に鉄道車両の無塗装化が進み、特急愛称のヘッドマークの廃止など、黒岩氏のような人材が活躍できる場がもはや存在しなくなっているのもまた事実です。
旧新橋停車場 黒岩保美展
~10/14(月休) 10:00~16:45 無料
最寄り駅は山手線などの新橋駅です。
東京国立博物館 縄文展 [東京]
自分の思い描く縄文時代のイメージは「狩猟生活の原始的な静かな文化」でした。
しかし、この展示を見て少しイメージが変わりました。
こんなにも多種多様な土偶が発掘されているとは知りませんでした。
見どころはなんと言っても写真のような土偶と縄文土器の計6点の国宝の集合です。
土偶はどれも個性が強く、2000年以上前のものであることが不思議に思えますし、なぜそのような形をしているのかも謎に感じます。
こんなにも面白い造形をしているのに、かつては全く評価されていなかったのだとか。
その評価の一翼を担ったのが岡本太郎です。
これら5体の国宝土偶ですが、国宝指定されたのもつい最近で、一番初めは1995年の縄文のビーナスでした(写真右前)。
そして、中空土偶は北海道唯一の国宝でもあります(写真左後)。
それ以外にもたくさんの土偶が展示されていましたが、多種多様な形態に驚きます。
ハート形土偶やミミズク土偶、遮光器土偶など多少地域性がありますが、代表的なものだけでもこれだけ土偶が発掘され伝えられていることに驚きました。
縄文土器もたくさん展示されています。
国宝の火焔型土器は流石と言うほどに完品で美しい姿をしていました。
しかし同様な土器は他にもたくさんあり、その一つ一つが個性的な文様をしていました。
後半になると土偶と土器が融合したかのような人面付土器もありました。
そもそも、こうした縄文土器は世界的にも珍しいのでしょうか。
世界の同時代の器コーナーも有りましたが、そこには同種のものはありませんでした。
中国~欧州にかけて、土の違いか色の違いこそあれ、シンプルな器でした。
中国出土のものは多少装飾性がありましたが、縄文土器のように年度の凹凸で模様を表すのではなく、土器に絵を描いて装飾していました。
現代の人の考え方からも、装飾する際には器に絵を描いて表現する方が自然です。
そうすると、縄文土器の特異性がとても目立ちます。
これこそ島国日本のガラパゴス的進化の結果かもしれません。
最近の世間はガラパゴス化を嫌うように感じます。
縄文時代のようにガラパゴス化でも面白く、素晴らしい面がある気がするのですが、駄目なのでしょうか。
国宝を始め縄文時代の遺物は東日本を中心に出土します。
つまり、東日本が縄文時代の文化の中心なのです。
これは、東日本は落葉樹林で多くのドングリが取れたことに起因するとの話を聞いたことがあります。
現在の縄文時代に関する国宝は6点ですが、まだまだ土の下には素晴らしい土偶が眠っているかも知れません。
10年後20年後は国宝の点数も増えているかも知れませんね。
そして、縄文文化の謎の解明が少し進んでいるかも知れません。
東京国立博物館 縄文―1万年の美の鼓動
~9/2(月休) 9:30~16:30 一般1600円 大学生1200円
最寄り駅は山手線などの上野駅です。
日曜日は18時まで、金土曜日は21時まで開館しています。
この展示はかなり混雑しますので、こうした延長時間帯がオススメです。
日野オートプラザ [東京]
日野オートプラザは日野自動車の企業ミュージアムです。
中には日野自動車の歴史の説明とたくさんの車が展示されています。
また、グッズ販売やカフェテリアもあります。
カフェテリアには日野マークが描かれたホットケーキもあり、魅力的だったのですが、昼ごはんを食べた後だったので残念ながら今回は食べませんでした。
このミュージアムでは、日野自動車のことが深く分かりました。
そもそも日野自動車には総理大臣の松方正義の子供の五郎が深く関わっているのですね。
また、歴史的にはいすゞ自動車と同一の企業体から誕生したということも分かりました。
(だから現在、J-busが両者のブランドのバスを生産しているのでしょうか。もとより関係が深かったのですね。)
また、何人かの開発者の話もあり、日野自動車の躍進には星子勇氏の活躍が重要だったようです。
しかし、星子氏は戦中に過労により亡くなってしまいました。
今の時代に働きすぎ云々が社会問題化していることを思うと、様々なことが頭をよぎります。
他にも、たくさんの資料や写真がありましたが、やはり企業ミュージアムの醍醐味は実車の展示です。
しかも、今ではバスやトラックのイメージしか無い日野自動車が乗用車を作っていたことを示す実車展示がありました。
コンテッサと言う名の乗用車は今でこそレトロ感を感じますが、流線型でオシャレです。
屋外にもいくつもの展示がありました。
ダカールラリー仕様の日野レンジャーやボンネット仕様のトラックや消防車は他で見ることがない貴重なものです。
バスも現在のハイブリッドブームに先んじて開発されたHIMR(ハイエムアール)バスやポンチョがありました。
そして、上記写真のように2階建てバスも有りました。
これは最近搬入されたようです。
インターネットの情報では2017年に搬入されたということですが、今回訪問したときには前事業者のロゴなどが消されていました。
少しずつですが整備されているということでしょうか。
しかしながら、ミュージアムのパンフレットには既に説明が加えられていました。
仕事が速いですね。
2階建てバスは一時期日本国内で多数走っていましたが、今では国内メーカーで生産しているところは一つもありません。
この日野自動車のグランビューも20台も作られることなく生産が終了しています。
まさに貴重な資料です。
一方で、ここ数年海外メーカー製の2階建てバスが広まる様相を見せています。
もしかすると、これまで国内メーカーがメインであったバス製造分野で、今後海外勢が優勢となるかもしれません。
つまり今がターニングポイントの真っ只中かも知れないのです。
これが真実かどうかは、残念ながら未来からしか判断できません。
日野オートプラザ
日、第1,3,5土休 10:00~16:00 無料
最寄りバス停は京王バスのみなみ野五丁目南です。
日野自動車の企業ミュージアムがあるものの、日野自動車製のバスのみが走るということもなく、いすず車、三菱ふそう車と多数の種類のバスが運行されています。
また、日野自動車なのに所在地は八王子なのですね、紛らわしい。